『せくかたありて心にもまかせぬ』

著者: 文車鞠花 (ふぐるま まりか)  ・  使用時はクレジット表記または口頭での説明をお願いします。
台本の登場人物名はご自由に変更してかまいません。
ジャンル: オカルト / ドラマ 雰囲気: ダーク、切ない、緊張感 長さ: 短編台本

登場人物

みかげ…女の子に一目ぼれし、執着する怪異
まりか…オカルトにちょっと詳しい本好きの友達
さい…クールだけど妹想いなお兄ちゃん
ゆき…怪異に見初められた優しい女の子

場面1:自宅

(夜、どこからか不気味な声が聞こえてくる)
みかげ
「こっちにおいで...」
ゆき
「っ?! さいおにいちゃんーーー!」
さい
「よしよし、どうしたの?」
ゆき
「誰もいないのに声が聞こえて...。最近ずっとなんか変なの。雨の日に履いていった覚えもないのに靴が湿ってたり、LINEしてたらスマホの表示がバグったり、電話しようと思ってもぶつぶつ音がして...」
さい
「それは普通にスマホが壊れてるんじゃない? 考えすぎじゃ? 靴は母さんが洗ったのかもだし」
ゆき
「んー、そうかなぁ....」
みかげ
「きみが く みちのなが くりたたね」
ゆき
「わっ!また!!!」
さい
「何も聞こえないよ?」
みかげ
「くりたたね くりたたね くりたたね」
--
(照明が激しく明滅し、真っ暗になる)
ゆき
「で、電気が...!」
さい
「ブレーカーでも落ちちゃったのかな」
みかげ
「やきほろぼさ あめ ひ が も」
--
(兄の足元に突然火が付く)
さい
「えっ、急に火が?! やばい、消さないと!」
ゆき
「わーーーっ!?」
--
(慌てて、コップの水をかける)
さい
「なんだったんだ今の...」
ゆき
「わーん!!だから言ったでしょ!怪奇現象が起きてるって!!」
さい
「うーん...。いつ頃ぐらいから?」
ゆき
「えーっと、んーっと! 一週間前くらい?」
さい
「一週間前? 友達とハイキングに行ってなかったっけ」
ゆき
「そう! 行ってた! 空気が美味しくて綺麗な山だったな」
さい
「なにか変わったものとかあった?」
ゆき
「うーん...。そうだなぁ。あ、山道にボロボロのちっちゃいお地蔵さんが転がっててね。可哀想だから、ハンカチを水で濡らしてちょっと拭いてあげて、木の根っこのとこに置いてきたかな」
さい
「あー...。それっぽいな」
ゆき
「えっ?!でも僕、悪いことしてないよ??むしろいいことしたのに!」
さい
「ちょっと調べてみるよ。アイリスは私が守るから。心配しないで」
さい
「調べてみたけど、あの山にやばい神様が祀られてるわけでもなさそうだし、よく分からなかったな...。一緒にハイキングに行った子にも話を聞いてみるか」
--
(妹の友達に電話をかけてみる)
まりか
「もしもし?」
さい
「遅くにすみません。アイリスの兄なんですが...」
まりか
「あ、お兄さん! こんばんは」
さい
「こんばんは。妹がお世話になってます。急に変な話をして申し訳無いんですが、この前のハイキングからアイリスの周りでおかしなことが起きてるらしくて...」
まりか
「えっ?」
--
(事情を説明され、思案する友達)
まりか
「なるほど...、気づかなかったなぁ。山道には確かに小さいお地蔵さんとかよく祀ってありますよね。旅の安全を祈願する、道祖神とかいうのでしたっけ。いい神様のはずなんですが...。もしかして、場所を変えたのがよくなかったのかな」
さい
「たしかに!それが原因かも。このままじゃ危ないし、明日見に行ってみます」
まりか
「うーん...。お一人で行くんですか?」
さい
「ええ」
まりか
「危ないんじゃ...。大したことはできませんが私も、午後からならご一緒できるんですけど...」
さい
「大丈夫ですよ。日が暮れるとまずい気がするし、ただでさえ山道は足場が悪いですからね」
まりか
「...わかりました。お気を付けて」

場面2:山

(昼。晴れているはずだけれど、鬱蒼と茂った木々のせいでどこか薄暗い雰囲気)
さい
「さて...。ハイキングコースを進んでけば途中で見つけられるかな」
さい
「あ、これかな? 元々は道の端っこにあったんだっけ。これでよしっと...。何とかなるといいんだけど。とりあえず帰ろっか、なっ?!手?!」
みかげ
「セ ク ナ 」
さい
「うわっ?!何?」

場面3:自宅

ゆき
「まりちゃ大丈夫かな、授業中に急に倒れちゃって...。さいおにいちゃんも今日は帰りが遅いな...。わっ?!また電気が!」
みかげ
「ムカエに来たよ」
ゆき
「えっ?!何?!誰ぇ??!」
みかげ
「もう大丈夫。邪魔者はみんな消したから」
ゆき
「な、なんの話? ! た、助け」
みかげ
「祝言をアゲヨウネ」
☆ちょっとした用語解説(クリックで開く)
タイトル
→ 枕草子「あはれなるもの」より引用

原文
思かはしたる若き人の中の、せくかたありて、心にもまかせぬ。
(思い交わす若い人の仲が、邪魔する人あって、意のままにならない)

万葉集 狭野茅上娘子 作
「君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも」
きみがゆく みちのながてをくりたたね やきほろぼさむ あめのひもがも
(あなたのいらっしゃる道の、長い道のりをたぐり寄せて畳んで、焼き尽くしてしまうような天の火がほしい)

古文単語「塞く」...邪魔をする、妨げる
せくな=邪魔するな